キッチンカー開業を志す人の多くが、最初に「どんな車にしようか？」と夢を膨らませます。 「レトロで可愛い軽バンがいい」 「大きなトラックで、アメリカンなカスタムがしたい」
その「こだわり」や「デザイン」は、確かにブランドを作る上で重要です。 しかし、もしあなたが「経営者」として「儲け（利益）」を出すために開業するなら、その車両選定は、100%「失敗」に終わる可能性が高いです。
なぜなら、キッチンカーの「車両選定」とは、「デザイン」や「好み」で選ぶものではなく、あなたの「売上目標」と「オペレーション設計」から逆算して決定すべき、最も重要な「経営判断」だからです。
「器（うつわ）」の大きさが、入れられる「中身（利益）」の上限を決めてしまいます。 この記事では、なぜ「なんとなく」で車両を選ぶと赤字が確定するのか、そして、あなたの「利益目標」を達成するためには、どのサイズの車両を選ぶべきなのか、その「逆算の思考」を徹底解説します。
なぜ「売上目標」から車両を選ぶのか？（逆算の思考）
車両選定とは、あなたの「損益分岐点（赤字ライン）」と「売上の上限（限界点）」を、開業前に決定づけてしまう行為です。 この「器」の選定ミスは、あとからオペレーションの努力（根性）でカバーすることは、絶対にできません。
失敗例1：「小さすぎる」器で、「大きな利益」を目指す（機会損失）
あなたが「月100万円」の売上を目標に、「軽バン」を選んだとします。 初期費用も安く、小回りも利く、賢い選択に見えます。 しかし、ここで「物理的な壁」にぶつかります。
- 積載量の壁：軽バン（軽トラ）の狭い荷台には、「大型フライヤー」「炊飯器3台」「80Lタンク」といった、高売上を出すための機材が物理的に積めません。
- 保健所の壁：積めるタンクが40L以下に制限され、許可されるメニューが「1工程（温めるだけ）」などに限定されます。
- 仕込み品の壁：「1日50食分」の食材を積むのが限界です。
- オペレーションの壁：作業スペースが狭すぎ、1人（ワンオペ）で回すのが限界です。
結果、どうなるか？ あなたの「秒速オペレーション」がどれだけ優れていても、物理的に「1日50食（例：5万円）」が売上の上限になります。 1日5万円では、月20日働いても「利益100万円」には絶対に届きません。
あなたは、毎日「もっと売れるのに、車が小さいせいで売れない」という「機会損失」を、延々と出し続けることになります。 器が小さすぎたのです。
失敗例2：「大きすぎる」器で、「小さな利益」を目指す（固定費地獄）
逆に、あなたが「まずは月30万円の利益」を目標に、「2t（トン）トラック」を選んだとします。 厨房は広く、作業性は抜群です。 しかし、ここで「固定費の壁」にぶつかります。
- 初期費用の壁：車両価格、改造費用が、1tトラックの1.5倍以上になることもあります。
- 固定費の壁：燃料費、自動車税、保険料、車検代、そして「大型車OK」の駐車場代…。これら「毎月、何もしなくても出ていくお金（固定費）」が、異常に高くなります。
- 機動力の壁：2tトラックでは入れない「都心のオフィス街の路地裏」や「スーパーの駐車場」といった、「儲かる出店場所」を失います。
結果、どうなるか？ あなたの「損益分岐点（赤字ライン）」が、とんでもなく高くなります。 「月30万円」の利益を出すためには、「月150万円」の売上が必要になる…といった事態に陥ります。
あなたは、広すぎる厨房で、その「高すぎる固定費」を払うためだけに、毎日働き続けることになります。 器が大きすぎたのです。
キッチンカー「3大ベース車両」の経営比較
では、どの車両が最適解なのか。 キッチンカーのベース車両は、大きく分けて「軽」「1t」「1.5t/2t」の3種類です。 これらを「経営者」の視点で比較します。
| ベース車両 | メリット（経営視点） | デメリット（経営視点） | こんな人向け |
| 軽（軽トラ/バン） | ・初期費用、固定費（維持費）が最安 ・損益分岐点を最も低くできる ・機動力が高く、出店場所を選ばない | ・積載量が限界（機材/仕込み品/タンク） ・売上の上限が圧倒的に低い ・保健所の許可が厳しい（メニューが限定的） ・ワンオペが限界（回転率が低い） | ・週末起業、副業 ・低リスクで始めたい ・メニューが超単純（例：コーヒー） ・月間利益目標が低い |
| 1t（タウンエース等） | ・黄金バランス ・積載量が十分（2人体制OK） ・機材・タンク（80L以上）も積める ・固定費（維持費）が比較的安い ・運転しやすく、機動力も高い | ・軽よりは固定費が高い ・室内高が低く、設計に工夫が必要 | ・ほぼ全ての開業希望者 ・本業として利益を出したい ・ワンオペ～2人体制 ・月50万円以上の利益目標 |
| 1.5t/2t（エルフ等） | ・積載量最強（厨房そのもの） ・室内高があり、作業性抜群 ・200Lタンクも可能（仕込み可） ・3人以上のオペレーションも可能 | ・初期費用が超高額 ・固定費（維持費）が超高額 ・損益分岐点が異常に高い ・出店場所が限られる（駐車スペース） | ・実店舗の延長（セントラルキッチン） ・企業案件、大型フェス専門 ・FC本部車両 ・月150万円以上の売上目標 |
なぜキッチンカーのプロは「1tベース（タウンエース）」を選ぶのか？
上記の比較表で、「黄金バランス」と書いたのが「1tベース車両」（トヨタのタウンエースや、マツダのボンゴなど）です。 多くの「儲かっている」個人オーナーが、なぜこのサイズを選ぶのか。それには明確な「経営理由」があります。
理由1：「損益分岐点（固定費）」を低く抑えられる
経営の大原則は、「固定費をいかに下げるか」です。 1tベースの車両は、軽自動車ほどではありませんが、2tトラックと比べると、税金、保険、燃料費、駐車場代といった「維持費（固定費）」を劇的に安く抑えられます。 これにより、「赤字ライン（損益分岐点）」を低く保ったまま、経営をスタートできます。
理由2：「売上の上限（積載量）」を高く設定できる
これが最大の理由です。 1tベースには、軽トラでは絶対に積めなかった「儲かるための設備」を積む「広さ」があります。
- 保健所クリア：80L以上の給排水タンクを積載可能。これにより「2工程調理（例：クレープ）」の許可が下り、メニューの幅が広がります。
- 機材の積載：「大型フライヤー」「炊飯器3台」「大型冷蔵庫」といった、高回転を生み出す機材を設置できます。
- オペレーション設計：ワンオペだけでなく、「2人体制」のオペレーション動線を設計できる「最低限の広さ」があります。
「固定費」は低く抑えつつ、「売上の上限」は高く設定できる。これこそが「黄金バランス」の正体です。
理由3：「機動力（出店場所）」を確保できる
「儲かる」かどうかは、「場所」で決まります。 1tベースの車両は、その「機動力（運転のしやすさ）」で、2tトラックでは物理的に入れない「儲かる場所」に入り込むことができます。
- 都心のオフィス街の、狭い路地裏
- スーパーマーケットの、決められた駐車枠
- 住宅街の、小さな空き地
これらの「一等地」に出店できる「機動力」は、売上に直結する最強の武器です。
あなたの「目標」に合わせた最適解は？
車両選定は、「売上目標」と「オペレーション体制」から「逆算」します。
【ケース1】「ワンオペ」で「月30万円（利益）」を目指すなら
- 最適解：1tベース。
- 軽トラでも不可能ではありませんが、将来的に「月50万円」を目指したくなった時に、車ごと買い替える（機会損失）ことになります。最初から「拡張性」のある1tを選ぶのが、経営判断として正しいです。
【ケース2】「2人体制」で「月80万円（利益）」を目指すなら
- 最適解：1tベース一択。
- 軽トラでは「2人体制」の動線は設計できず、機材も積めないため、目標達成は不可能です。
- 「L字型コックピット」や「分離動線」を設計できる「最低限の広さ」を持つ1tベースが必須となります。
【ケース3】「企業案件」で「月150万円以上」を目指すなら
- 最適解：1.5t～2tトラック。
- これはもはや「キッチンカー」ではなく、「移動店舗（レストラン）」という別のビジネスモデルです。巨大な固定費をまかなえるだけの、確実な売上（大型フェスや企業との契約）がある場合のみ、選択肢となります。
まとめ：「器」選びは、最初の「経営戦略」である
車両選定は、「デザイン」や「憧れ」で決めるものでは、断じてありません。 あなたの「利益目標」から逆算し、
- 「固定費（損益分岐点）」を、どこまで低くできるか？
- 「積載量（売上の上限）」を、どこまで高くできるか？
- 「機動力（出店場所）」を、どれだけ確保できるか？
この3つの「経営指標」を天秤（てんびん）にかけ、最も「投資対効果」が高い「器」を選ぶ、最初の「経営戦略」です。 この「器」選びを間違えた瞬間に、あなたの「儲け」の上限は、あなたが思うより、ずっと低く設定されてしまうのです。
その「車両」、あなたの「売上目標」と「固定費」に見合っていますか？
「カッコいいから『2t』を選ぼうとしていた…危なかった」 「『軽トラ』では、目標の『月50万円』に届かないことが分かった」 「自分の目標に、どの『中古車』が最適なのか、プロに診断してほしい」
そう、「車両選定」は、あなたの経営の「土台」です。 この「最初の経営判断」を間違えると、どんなに優れたオペレーション設計も、どんなに美味しいメニューも、その「器」のせいで、利益を生みません。
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